東京高等裁判所 昭和55年(う)1535号 判決 1982年5月14日
本店所在地
群馬県前橋市総社町植野五七二番地の三
株式会社大喜
右代表者代表取締役
大谷哲
右会社に対する法人税法違反被告事件について、昭和五五年七月二二日前橋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官宮本喜光出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人江村一誠名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官宮本喜光名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
所論は、要するに、原判決の被告会社に対する量刑が重過ぎて不当である、というのである。
そこで、調査すると、本件は、節句用ぼんぼりや盆提燈等の製造販売を目的とする被告会社(資本金一、〇〇〇万円)が所得を秘匿し、昭和五二年六月三〇日決算の事業年度の実際所得一億一、三五九万二、〇一五円のうち、七、五〇三万五、四九二円のみを所得とする虚偽過少の確定申告をし、正当税額四、三一一万一、四〇〇円のうち一、五四一万二〇〇円をほ脱したという事案であるところ、右所得の秘匿率は三三・九四パーセント、税ほ脱率は三五・七五パーセントであり、ほ脱金額も少なくないこと、脱税の方法が虚偽過少の確定申告のほか、期末棚卸資産の過少計上及び架空仕入の設定という作為的なものであり、特に架空仕入の方法は相手に定率の報酬を与えて仕入の外形を作出させるという悪質なものであること、右各方法とも長年計画的に継続して行っていたもので、本件年度のみの一過性のものではないことに徴すると、被告会社の刑事責任は重いといわなければならない。そうすると、右過少計上をした期末棚卸資産のうちには、公表すれば、損金経理により得る商品もあったとみられること、本件脱税後、架空仕入分について自発的に修正申告をしたこと、本件脱税にかかる本税付帯税を完納していること、その他所論の指摘する諸点を十分斟酌しても、被告会社を罰金五〇〇万円に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとまでは認められない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 杉山英巳)
○ 昭和五五年(う)第一五三五号
控訴趣意書
法人税法違反事件
被告人 株式会社 大喜
右事件に対する控訴の趣意は左のとおりです。
昭和五五年九月三〇日
右弁護人弁護士 江村一誠
東京高等裁判所第一刑事部
御中
原審判決が、被告人会社に対し罰金五〇〇万円としたのは、次に述べる諸事情を考慮した場合、重きに失つして不当であり、破棄されなければならない。
一 まず、原判決は訴因となった事実である昭和五一年七月一日から昭和五二年六月三〇日までの事業年度に於けるほ脱額一、五四一万二〇〇円を無視し、証拠資料上恰もその前事業年度以前にも同様のほ脱が存在したかの如き、謂わば別の訴因を構成する事実をも勘案して、量刑の資料に加えたものと思われ、極めて不当である。
即ち、本件事案の如き、法人に対する行政上の罰則規定の内容たる事実は、常習性癖或は同種事案の存在等の謂わば人格的批難要素たる事実とは全く無縁である筈である。他に訴因を構成すべき事実が存在していると思料されれば、これを証明し、訴追すれば済むことである。
然るに、原判決は、検察官提出証拠中に、訴因となっていない昭和五一年六月三〇日以前の事業年度にも、同様のほ脱事実が存在したかの如き資料が存在していることを把え、これを量刑資料に加えたものである。
二 本件の犯行の態様について検討すると、本件脱税額の過半を占めている棚卸の評価については、経理上最も軽視され易い部門であり、企業経理が正確に管理されている筈の企業に於いても、事故の発生が頻繁に生じているものである。
被告人会社でも、小企業に多くみられる如く企業計理の管理は極めて不徹底であり、在庫商品等の管理は全くなされていなかったも同然であった。
更に、被告人会社の代表者らでは、販売不振の商品については、在庫商品と考えることなく、棚卸から除外してしまっていたのであり、その金額も二、〇〇〇万円を超えるものであった。
被告人会社として、棚卸については適当な金額を利益ないし売上金額に応じて計上しておけば良いとの安易な考え方が有り、これが本件犯行(棚卸)の原因となっているのであるが、右の点を考慮すると一概に批難を加えることは失当と云わねばならない。
又、棚卸による在庫商品等の金額は、数年間に亘る見積金額が集計されて、巨額なものとなっているのであった。会計学上、この累積される数年の経過内容につき何ら申告していない以上、一年度の増額したものと評価せざるを得ないものではあろうが、これを刑事責任の面にて直ちに同様の評価を行なうのは極めて不当な結果をもたらすこと明白である。これらの実質的な事情を考慮した場合、棚卸の過少申告については同情の余地十分と考えられる次第である。
三 次に、被告人会社での架空仕入については、悪質との評価を逃れられないものではあるが、このほ脱については、被告人会社自ら自主的に修正申告を行い、その全てを明らかにしている。刑事上の自首と同視されるものである。
四 被告人会社では、今回ほ脱と指摘された内容の全ての法人税につき、その本税、延滞税、加算税の全額を納付し終えている。
この支払については、殊に本件ほ脱の大部分が現金化されない帳簿上の利益にすぎない棚卸し金額の面にあった為、その支払は極めて困難を伴ったものである。
この支払についての難易の評価は別異にしても、訴因となっていない年度の所得までをも含めて、これまでに納付を完了していることは、反省の態度を十分に裏付けるものであろう。
五 これに加え、被告人会社では現在、元国税査察官であった者を経理顧問に迎え、今後につき十全を期していることも高く評価されるべきである。
六 以上の諸事情を考慮した場合、原判決の刑の量定は重きに失っするものであって、破棄されると共に相当額減ぜられるべきであることを上申する次第である。 以上